衝撃的なキャラクター
デートした相手が思っていたキャラクターと違っていたお話でもしようかなと思います。
すごく気になりますね!どんな内容ですか?
僕って見た目はどこにでもいる平凡な草食系だと思うんですが、ある時知り合った女の子と初デートの時に今日は行きたい店があると言われたんです。
その子は友だちに連れて行かれたバーで出会ったんですが、本や映画という共通の趣味で意気投合したんです。初デートの日も映画を観に行くことになっていて、僕らは予定より少し早い時間に集合しました。
そこで言われたのが冒頭の台詞。どこに連れていってくれるのかな、と気軽に構えてついていったのですが、彼女は普段僕がテリトリーとしていないし、今後することもないような路地に入っていきます。そして、連れてこられたのはピアスの店でした。
「私、今度ヘソにピアスを開けたいの」
カウンターには鼻筋から額までピアスだらけの店主が立っていました。
思いもしなかったお店に連れて行かれたということでしょうか。 その後はどうなったのでしょうか?
「ヘソにピアス・・・・・・ですか・・・・・・」
僕は思わず敬語で返答していました。よくよく見てみると彼女の耳たぶは穴だらけでした。そこから店主と彼女の専門的なやり取りが始まったのですが、正直何を話しているのかは覚えていません。
もちろん人の感性はそれぞれでヘソにピアスを開けることがダメというわけではありません。ただ少なくとも僕の周りで耳以外に部位に人工的に穴を開けている人間を見たことがなかったのでまごついてしまいました。
「親からもらった大切な体に穴を開けてはいけません」
高校生の頃に口酸っぱく生徒指導の先生が話していた今となっては時代錯誤と揶揄されてもおかしくないその台詞がリアルに頭の中でリフレインしていました。
結局その日彼女はピアスを見繕っただけで買うことはありませんでした。僕の気持ちはそぞろでしたが、この動揺を悟られるわけにはいかないと思い、そのまま映画館へ向かいました。
映画が終わり、僕らは予定通りに居酒屋で晩御飯を食べることにしました。その頃には僕の意識は映画の感想で塗り潰され、気を取り直してお酒を楽しむことにしました。
しかし、残念ながらその日はとても混雑していて落ち着いてゆっくり楽しめずイマイチ盛り上がに欠けてしまいました。いえ、欺瞞ですね。もしかしたら、それは僕の脳裏に生徒指導の先生の顔がチラついていたせいかもしれません。
ところが、僕がそのような思いを抱えているのを知ってか知らずか、彼女は衝撃のカミングアウトをしてきたんです。
なにをカミングアウトしてきたのですか??
すっと袖を捲り始めたんです。ロールアップは手首を過ぎ、肘を過ぎ、そして二の腕が露わになりました。
「私、切っているの」
そこには夥しいためらい傷がありました。僕はその日2度目の硬直に陥りました。
「ど、どうして二の腕?」
「手首だと目立つでしょ」(ああ、そっちの思考回路)
そして、僕の中で穴だらけの耳とこれから穴が開くであろうヘソが繋がりました。この子の自傷癖が今の趣味嗜好に至るきっかけだったのだ、と。
その後はお付き合いすることもなく、それっきりですか?
「今度の日曜日遊ばない?」
ところが、僕はその時既に今の妻とお付き合いしていので、正直にその旨を伝えてお断りしましました。決して、ヘソピが脳裏をよぎったからではありません。
「そんなんじゃずっと遊べないじゃん」
あの頃から彼女の考え方、人との付き合い方は変わっていないのだな、と苦笑いしてしまいました。
なんだか不思議な人ですね・・・
さすがに今は連絡が来ることは無いですか? その経験から学んだことはありますか?
この歳になってTwitterやブログで新たにたくさんの人と新しく知り合って、思うようになったのですが、人間って面白いですよね。それぞれ個性を持った色んな人と交わることで自分の中の経験値がどんどん増えて視野が広がっている実感があります。
彼女は僕に違う世界の扉を見せてくれました。交際まで至らなくても友人として関係が続いていれば扉の奥にあるもっと面白い人間的な深みを見せてもらえたかもしれません。あれは、僕にとって貴重な機会の損失でした。
あの頃のウブな僕にそれを期待するのは酷な話ですけどね。
貴重な機会を損失してしまったことに失敗を感じたということでしょうか。
ほろろさんのすばらしい文章力にどんどんと引き込まれて行きました!
https://apotheker.fun/profile/
https://twitter.com/OchaGenmaicha
コメント